中国の白蛇伝はほぼ同じストーリーばかりだ、というようなことを書いたが、その後いくつか動きがあった。
まずは伝統的な白蛇伝だが、香港映画に『新白蛇伝』というのを見つけた。武侠映画「東方不敗」「白髪魔女伝」のヒロインを演じて人気を博したブリジット・リン(林青霞)の主演。だがこれが一向に面白くなかった。発表時期が〃文革〃終結後間もないころだったので、いまさら革命戦士や封建勢力との戦い、などとテーマを定めてもシラケが先に立ち、制作側も半端なラストシーンで終わらせてしまった観がある。
ところがその少し後、やはり香港から『青蛇転生』という映画が現れ、仰天した。アクション監督で有名なチン・シウトンが特撮の腕を存分に揮い、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』などで名をはせたジョイ・ウォンと、ジャッキー・チェンとの共演で知られその後「阮玲玉」「HERO」などでも注目されたマギー・チャン(張曼玉)が白蛇青蛇を演じている。男優のほうは忘れた。この映画は敵役の法海禅師を思い切って青年にしてしまったのがミソで、これによって三人の対立の図式は新旧勢力の対立ではなく、理想を異にする青年群像に変わってしまったのだ。法海もまた若さゆえに理想と現実のはざまに苦悩する人物として描かれる。金山寺水没のあと、白蛇は人間になれたものの許宣の子を残して死ぬ。青蛇は人間の世界に見切りをつけて去り、法海は赤子を抱いて途方に暮れる。許宣はどの作品でも優柔不断な男として描かれていて、ここでも情けない死に方をしている。
さらにさらに、小説でも興味深いものが二篇見つかった。一つは香港の作家劉以鬯の短編「蛇」。白蛇ではなく許宣の視点から三人称で書かれていて、ネタバレになるが、すべては許宣の妄想にすぎなかったのではないかという謎めいたラストで終わる。
もう一つは、映画『シュウシュウの季節』で大陸では発禁騒ぎを起こした厳歌苓の短編「白蛇」である。四川省の地方劇である「川劇」に『青蛇伝』という演目があり、雷宝塔に閉じ込められた白蛇を救出する青蛇を主人公に据えたストーリー。この『青蛇伝』を、〃文革〃の時代を背景に、白蛇伝で名をはせた女優が監禁されているのを、そのファンだった役者志望の少女が救出しカムバックさせるというもの。人物名こそ変えてあるが、白蛇伝を知っている読者ならば、あれが法海だな、あれは観音菩薩だな、とすぐ見当がつくような仕掛けになっている。単なるパロディにとどまらず〃文革〃の裏話としても読めるのは、上海生まれの作者がつぶさに体験したことがベースになっているからであろう。
白蛇伝はまだまだ奥が深いようだ。日本ではそれらしき作品も見当たらないが、中国語圏ではまだどんなものが現れるか予想もつかない。大いに期待すべきである。
さて、比べてみたい妖怪変化はまだいくつかあるが、すでに長々と書いてしまった。ひとまずこの辺で筆を休めるとしよう。
次回からは現代中国のホラーやアドベンチャーものについて語ってみようと考えておりますので、どうぞよろしく。
【日記の最新記事】

